脱出ゲームブームが定着し、全国で数多くの団体が活動を続けるなか、業界の中核として独自の存在感を放つ「Tumbleweed」。 “面白ければ正義”を掲げ、常に挑戦的な作品を生み出す彼らの哲学とは何か。 代表・メガビン氏に開発の舞台裏と未来を聞いた。

■ まだ知られていない“脱出ゲーム文化”の裾野
しゃる
今日はよろしくお願いします!
メガビン
こうして脱出ゲームの裏側を話せる機会をもらえるのは嬉しいですね。
作り手として普段はなかなか表に出ることがないので、何かのきっかけになればいいなと思ってます。
しゃる
いえいえ、いきなりのご依頼に応えていただいたありがとうございます。新作紹介とかで、ライターを何人か連れて行って、テストプレーヤーとして参加させていただいて。クリエイターさんに「どんなところにこだわってます?」って聞くのが1つの楽しみなんですよ。 実は今、ESCAPE.IDに登録している脱出ゲーム団体って58団体(注:現在は73団体)もあるんです。けど、きっと全ての団体を知ってるぞ!って人はまだまだ少ないと思っていて。
なんなら世の中には「Tumbleweed」という言葉を知らない人がまだたくさんいるかもしれません。
メガビン
「脱出ゲーム」っていう言葉は知ってるけど、それがどこの企業が作ってるかって、あんまり知られてないことが多いよね。
しゃる
そうなんですよ。まだまだ認知度は低い。マクドナルドやロッテリアのように「名前で行く」レベルには程遠いんですよね。
メガビン
やっぱり文化ですよね。団体ごとに色があるけど、それって実際に参加しないと分からない。
しゃる
食べてみないと味が分からないのと一緒で、体験しないと分からないんですよね。
今回の対談も、そういう団体の「個性」を伝える第1弾として、ESCAPE.ID立ち上げ時から関わっているTumbleweedさんを特集したいと思っていたんです。
メガビン
脱出ゲームって、団体ごとに独自の世界観や演出があるじゃないですか。でも、それって実際に体験しないと分からない。
だから「文化」として広がるためには、その多様性を体験する人が増えなきゃいけないんです。
しゃる
まさに。食べてみないと味が分からないのと同じで、参加しないと“その団体らしさ”は伝わらない。
今回は、そんな中でも明確な哲学を持って作品を作り続けている団体──Tumbleweedさんに焦点を当てたいと思っていました。

■ Tumbleweed誕生の原点と「面白ければ正義」
しゃる
改めてお聞きします。メガビンさんがTumbleweedを立ち上げた当初と、今とで一番変わったところは何でしょう?
メガビン
最初はほんとに“趣味の延長”でした。リアル脱出ゲームが好きで、自分でも面白いものを作れたらいいなと思って始めたんです。だから商業的な動機ではなかった。
「他の人よりも面白いと言われたい」──その気持ちが根底にあります。
今でも変わらないのは、「面白ければ正義」という考え方。予算や効率よりも、作品の完成度と満足度を最優先しています。
しゃる
だからこそ延期してでもクオリティを優先する、と。
メガビン
そうです。納期より“面白さ”が勝るなら、迷わず延ばします。会社的には数字がブレますけど、僕らにとってはそっちのほうが健全なんです。
「いつまでも色褪せない衝撃を。」というキャッチコピーも、会社全体に根付いています。
社内のクリエイターも“コケることを恐れている”し、「いい加減なものでも儲かる」空気感を絶対に作りたくない。 面白くなければ、どんなに売れそうでも出さない。逆に、面白ければ赤字でも出す。それくらい“面白さ”に対してストイックなんです。
■ 現場を支える職人チームとブレスト文化
メガビン
いまの社員は16〜18人くらい。ディレクター3人、サブディレクター2人、プランナー1人。 他にも外部の協力者がいて、デザイナーやエンジニア、システム担当のフリーランスまで含めると20人規模の制作体制になります。
しゃる
外注も使いながら、最終判断は必ず自分たちで行うと。
メガビン
そうです。責任も誇りも自分たちで持つ。だからこそ、外部の人とブレストする時間をすごく大事にしています。 外部からの刺激が内部を活性化し、結果的に全体のクオリティが上がる──そんな良い循環ができています。
しゃる
オンライン謎の「ONE OPERATION」も話題になりましたね。あれは地方の方からの要望がきっかけだったとか?
メガビン
そうですね。「下北沢に行きたいけど行けない」という声が多くて、ならば“自宅で下北沢の空気を感じられる仕組み”を作ろうと、MICHIさんという団体と一緒に作りました。
制限時間をなくして、ゆっくり考えられる構成にしました。
店舗では120分、オンラインではじっくり何日でも遊べる。その自由度が好評で、初めて謎解きに触れる人の入り口にもなっています。
しゃる
まさに“脱出ゲーム文化の拡張”ですね。
メガビン
そうなんです。北海道や広島の制作団体の方から「タンブルの名前は聞いたことあります」と言われた時は、本当に嬉しかったですね。
参加したことはなくても、“名前が届いている”というのは、大きな一歩でした。

■ コロナ禍の危機と再生:「タンブルウィード オールスター」誕生秘話
しゃる
制作の中で一番大変だったのは、やはりコロナ禍の時期ですか?
メガビン
間違いなくそうですね。2020年の2月と3月に新店舗をオープンした直後、緊急事態宣言で1週間後に休業。家賃も人件費も止まらないのに、収益はゼロ。あのとき本気で「会社なんてやるもんじゃない」と思いました(笑)。
でも、そこでクラウドファンディングを始めて、ファンの方々に支えられた。その時に生まれたのが「タンブルウィード オールスター」です。
店舗が動かせないなら、物販をエンタメ化する──その発想が新しかった。
しゃる
結果的に黒字化も達成されたとか。
メガビン
はい。クラファンで得た資金を新システム開発に回して、オンラインでも体験できる形を模索しました。
ファンと一緒に作ることで、会社が一段成長した感覚がありましたね。
■ “納得感”の哲学──失敗しても気持ちいい作品を
しゃる
プレイヤーにとって、タンブルの作品は“難しいけど納得できる”という印象が強いです。これは意識して作っているんですか?
メガビン
まさにそこが核心です。
僕たちが大切にしているのは、“納得感”です。失敗したとしても、「ああ、そういうことだったのか」と心から思えるかどうか。
そのために、謎の導線や世界観の整合性まで徹底的に磨きます。「なぜそれがそこにあるのか」まで理由を作る。何度もテストプレイをして、理不尽さを排除するんです。
しゃる
「納得感」は、成功よりも深い満足ですよね。
メガビン
そうなんです。成功よりも“納得して失敗する”方が記憶に残る。
僕らの理想は、「失敗しても気持ちいい」作品です。
公演を終えたあと、会場全体が「なるほど!」と一体になる──それがTumbleweedのゴールです。
■ 将来のビジョン:「知る人ぞ知る名店」であり続ける
しゃる
今後の展望についても伺いたいです。店舗拡大などは考えていますか?
メガビン
チェーン展開は考えていません。むしろ、「知る人ぞ知る名店」でありたい。
謎解きファンが「やっぱりタンブルだよね」と言ってくれるような、唯一無二の存在でありたい。
AIが進化して、謎解きがAIで生成される時代が来ても、僕らは人間が考える“面白さ”を守りたい。AIには作れない「ひらめき」や「心の温度」が、脱出ゲームの本質だと思うんです。
これからも、解き明かす楽しさと、挑戦する勇気を届け続けたいですね。

しゃる
今日は本当に濃いお話をありがとうございました。
数字でも流行でもなく、“面白さ”を基軸に作品を作り続ける姿勢に感動しました。
メガビン
こちらこそ。僕らもまだ発展途上ですが、面白いと思うものを真っすぐに作り続けていきます。

📰 編集後記 業界の「認知拡大」と「文化成熟」は、同時に進行している。 Tumbleweedの姿勢は、商業主義に流されない“職人集団”としての矜持を示している。 「失敗しても気持ちいい作品」──その一言が、今後の脱出ゲームシーンの指標になるだろう。
Tumbleweedについてもっと知る: https://escape.id/tumbleweed-org/