
ある日、知人の✨ Aoi Mitsu. ✨さんから、こんな連絡が届いた。
「うちのスタジオでマダミスやるから、きてよ!」
うちのスタジオ。マダミス。
……スタジオで、マダミス?

普通、その2つは同じ文章には出てこない。
こんにちは。自分の好きなものを並べだしたら朝が来てしまうESCAPE.GUIDEナビゲーター、なぞのデザイナーです。

今回お邪魔してきたのは、東京・蒲田にあるコンセプト撮影スタジオ「承認欲求STUDIO」で行われている、行動現実型マーダーミステリー『承認欲求からの落下』。
マダミスを少しでも遊んだことがある方なら、上の紹介で気にかかる単語があったかもしれません。
「スタジオ」「マダミス」。
マダミスといえばカフェやイベントスペースのテーブルを囲むものだし、スタジオは写真や映像を撮る場所だ。
ところがこれは、この場所でしか成立しないように設計されたマダミスでした。

説明に入る前に、念のため。
マダミスは、参加者がそれぞれ役を演じながら、起きた事件の真相を暴いていく体験型ゲームです。シナリオブックとカードを使って、机を囲んで進行するスタイルが主流かと思います。
『承認欲求からの落下』は、その机を蹴飛ばすところから始まっています(比喩)。
スタジオという空間そのものをゲームの一部として組み込んだ構造になっています。

ということで今回も、ESCAPE.GUIDEのプレイレポでおなじみのマダミス・イマーシブ好きmoyaくんを誘って、2人体制で挑んできました。
第1章 蒲田、ある一室の扉
最寄りはJR蒲田駅から徒歩6分、または東急池上線・蓮沼駅から徒歩4分。住所は予約後に案内される仕組みなので、なぞのも当日初めて目的地までのルートを歩きました。
蒲田、降り立つと観光地っぽさは一切なく、駅前から普通の日常が広がっています。商店街、定食屋、住宅。「マーダーミステリーの会場に向かっています」感はゼロ。
そして目の前に現れるのが、ごく普通のマンション。

マダミスを遊ぶ場所として、まず想定しないタイプの建物。普通の入り口、普通のエレベーター、普通の廊下。

「これ、本当に合ってますか……?」と地図を二度確認しながら、案内された部屋の前へ。

そして扉を開けた、その先。



真紅で統一されたメインルーム。コラージュで埋め尽くされた壁。展示された衣装と作品。マンションの一室とは思えないくらい、空間が完成されています。
普通の住宅街の、普通のマンションの、ある一室の扉だけ──別世界に続いている。
このギャップは、体験の入り口としてかなり強いものでした。「これからここで何が起こるんだろう」というスイッチが、物理的に切り替わる瞬間があります。
ここが、承認欲求STUDIOです。
第2章 撮影スタジオの中の、マーダーミステリー
承認欲求STUDIOは、コスプレイヤー・ポートレート・MV撮影など幅広く使われているコンセプト撮影スタジオです。クリエイターによる作品や衣装が常設展示されており、空間そのものが「作品」になっている場所。
このスタジオを作ったのが、冒頭でなぞのを誘ってくれた✨ Aoi Mitsu. ✨さん。謎解きアパレルブランド「トキキル」の写真などで関わってきた方、というと、ピンとくる方も多いはずです。


※本記事中のお名前装飾は、Aoiさんからの「ファビュラスにしといて!」という要望を受けてやってみました。そんな要望ある?
ビビッドな色彩感覚と独特の世界観が、空間として立ち上がっている場所。
これだけでも見応えのあるスタジオなのですが、今回はそこでマダミスをやる。空間が世界観そのものなので、入った瞬間にすでに半分くらい物語が始まっています。
ちなみに、後で✨ Aoi Mitsu. ✨さんから聞いて驚いたんですが、この物件はマダミスの会場として使うことを前提に選ばれていたそうです。
詳細は後ほど。
第3章 集まる8人の女、ひとりは死んでいる
『承認欲求からの落下』のあらすじはこうです。
かつて、伝説のモデルがいた。彼女は死んだ。理由も経緯も曖昧なまま──そして三年後、彼女に関わりのあった8人の女たちが、追悼式典を前にこのスタジオに集まる。
登場するキャラクターは女性7名(故人を含めると8人)。それぞれが故人と関わりがあり、それぞれが固有の「承認欲求」を抱えています。
なぞのは今回、「KUYURI(くゆり)」というモデル役を引きました。
これがめっちゃ良くて、後半に総監修の鯨井さんに「くゆりってどんな子だと思う?」と聞かれて語り出したら止まらなくなり、鯨井さんがニコニコ聞いてくれるくらいには、いい子でした(これも後述します)。
ここから先はネタバレになるので詳細は伏せますが、一つ言うならば、登場する7人全員が「おもしれー女」です。
承認欲求という言葉は、最近だと「いいね欲しがり」みたいなネガティブな文脈で使われがち。でもこのキャラたちの承認欲求は、もっと多様で、もっと人間味があって、ひとりひとり全然違う方向を向いています。
それを見抜いていくのが、このゲームを楽しむコツでもあります。
ちなみに、配られるハンドアウトや小道具のクオリティも、見ていて唸るレベルでした。

世界観・空間・小道具・キャラデザイン、すべてが同じトーンで揃っている。「最高の女たち」が生きるに足る、最高に整った舞台になっています。
第4章 部屋を出る、空間を歩く

『承認欲求からの落下』が「行動現実型マダミス」と銘打たれている理由が、ここで分かります。
通常マダミスは、ひとつの部屋で全部完結することが多い形式です。机を囲んで、カードと書類を見て推理し、議論する。
このゲームでは、普通に部屋から出ます。
「あっち見てきて」と言われて、別の部屋に行く。屋上に行く。バルコニーに行く。マンションの本当の共用部分まで使うシーンもあります。
本物の物件で、本物の階段を上り下りする。
これが効いていて、「自分が本当にこの世界の登場人物として、この建物を歩いている」感覚になる。普通に「現場に来た刑事」みたいな気持ちになる。
空間を実際に歩く体験は、机上の調査とは別物の楽しさがあります。
机上で読むんじゃない。空間に立ち入って、人物として過ごす。
ここまで「場所そのもの」を演出に使ったマダミスは、なぞのも初めての体験でした。

そしてこの構造ゆえに、面白いトレードオフもあります。
外を歩く演出があるので、雨が強い日は屋上やバルコニーで傘をさす必要が生まれる。
「天気が体験に影響する」マダミス、なかなか聞きません。
なぞのデザイナー視点だと、制約があるからこそ作品の個性が立つ事例として興味深く感じました。完璧にコントロールできない要素を、ちゃんとリスクとして引き受けたうえで、それでもこの形を選んでいる。
設計の覚悟みたいなものを感じる部分です。
第5章 終盤、疑い合いの中で「私」を選ぶ

マダミスの定番として、終盤にかけては全員が全員を疑い合う構造に入っていきます。
誰が嘘をついているのか、誰が何を隠しているのか。
ここで良かったのが、「くゆり」というキャラに完全に没入していたので「くゆりだったらこの場面でどうするか」で行動を選べたこと。
「正解を当てに行くプレイ」と「キャラとして生きるプレイ」の両方ができる構造になっています。これって設計的にかなり難しいことだと思っていて、両立しているのがこの作品の強み。

結末は伏せますが、終わったあと「くゆりとしてあの選択ができてよかった」という、不思議な手応えが残りました。
なお、終了後はスタジオの空間で過ごす時間も少しいただけました。撮影スタジオならではのご厚意で、体験の余韻をそのままの場所で味わえたのも良かったです。
第6章 アートディレクター・✨ Aoi Mitsu. ✨に聞く
体験のあと、原案・アートディレクターの✨ Aoi Mitsu. ✨さんにお話を伺いました。冒頭で書いたとおり元々の知り合いなので、いつもの距離感のまま、敬語なしで進みます。
つまりここは「マダミスの舞台になる空間」として選ばれて、作られた場所ということになります。
なぞのが気になっていたのは、もうひとつのテーマ。"承認欲求"です。
このスタジオの名前であり、今回のマダミスのテーマでもある言葉。最近は「承認欲求モンスター」みたいな、どちらかというとネガティブな文脈で語られることが多くないですか?
そのへんを率直に聞いてみました。
「受け取り側に評価される承認欲求」じゃなくて、「自分が自分を承認するための、能動的な承認欲求」。
承認欲求って、美しい。
なぞのは、この言葉のあとちょっと黙ってしまいました。
『承認欲求からの落下』に登場する7人の女たちは、まさにそれぞれが、それぞれの形の承認欲求を抱えている。プレイ中になぞのが感じていた「キャラ全員おもしれー女だ」という気持ちの正体は、たぶんここでした。
作り手が、ひとりひとりを「最高だ」と思って作っているから、最高の女たちになる。
これが、このゲームのキャラがあれだけ立っている理由だったんだなと、納得した瞬間でした。
第7章 ”事件”の制作者、鯨井翔に聞く

トリック制作・シナリオを手がけているのは、『タンブルウィード』『よだかのレコード』などで名作を生み出してきた鯨井翔さん。トリックと物語の設計を担当しています。
なぞのが特に気になっていたのは、「実際の空間を使う」という制約のもとで、トリックをどう設計しているのか、という部分でした。
これがこの作品の凄みの正体だと感じました。
普通のマダミスなら、「カードに書かれた状況」を信じて推理する。
でも『承認欲求からの落下』では、そこに本当の物体があり、本当の重さがあり、本当の音がある。
「もし本当にこの場所で殺人が起きるなら」を、本気で詰めて作られたマダミス。
書き割りではない作り込み。ここまで物理的なリアリティに踏み込んだ作品は、他で出会うことがあまりない一作です。
ここから取材から脱線しまして、なぞのが演じた「くゆり」がどんな子だと思うか、を語り出してしまいました。
鯨井さんはニコニコしながら&✨ Aoi Mitsu. ✨さんも、楽しそうに聞いてくれていた気がします。時間いっぱい使ってごめんね。
インタビューじゃなくて感想戦の話なんですけど、お二人の作ったキャラについて、お二人の前で熱く語る時間って、なかなかできない経験です。
二度とできない時間でした。お二人ともありがとうございました。
第8章 ─ ✨ Aoi ✨が集めた「おもしれー」の集合体

体験を終えて、強く感じたのは。
承認欲求STUDIOというスタジオも、✨ Aoi Mitsu. ✨さんがこれまで関わってきた写真の世界も、そして今回の『承認欲求からの落下』も──全部同じ手触りがある、ということ。
"承認欲求"シリーズは、✨ Aoi ✨が「おもしれー」と思ったものを集めた集合体。
場所も、衣装も、キャラクターも。すべて「これ、最高に面白くない?」「これ、めちゃくちゃ美しくない?」という✨ Aoi ✨の感性で選び取られて、ひとつの宇宙になっています。
そして今回、そこに鯨井さんという「物語と仕掛けの作り手」が加わったことで、「おもしれー」の宇宙の中に、本当に立ち入って、人物として過ごす体験が成立した。
なかなかない一作です。
こんな人におすすめ
- マダミスをいくつか体験したことがある人 → 「空間を使い切る」設計の新しさを楽しめます
- イマーシブシアター・没入体験が好きな人 → 推理しながら役を生きる感覚を味わえます
- ✨ Aoi Mitsu. ✨さんの世界観が好きな人 → その世界に、自分が登場人物として立ち入れます
- キャラクターに没入するタイプのプレイが好きな人 → 7人全員が「おもしれー女」、誰を引いても当たり
- 場所そのものを体験する旅が好きな人 → スタジオに足を踏み入れる瞬間から、もう体験は始まっています
終わりに ─ 蓮沼駅、踏切の音

『承認欲求からの落下』、唯一無二の体験でした。
マダミスを「シナリオを遊ぶゲーム」として完成させてきた潮流の中に、こういう「場所と紐付いた、その場所でしか成立しない」アプローチがあるんだ、という発見があるはずです。
そして、✨ Aoi Mitsu. ✨さんの世界観を追ってきた人には、「あの世界の中に、自分が入れる」体験になります。
キャラクターを演じることが好きな人には、間違いなく「最高の女」が用意されている。
承認欲求って、たしかに、美しい。
体験を終えてみると、✨ Aoi ✨のこの言葉が、すんなり胸に落ちてきます。
帰り道は、東急池上線・蓮沼駅を使いました。
ホームに立ったとき、なんかすごく良かったんです。カンカンカンという踏切の音が遠くから聞こえてきて、ホームの灯りが少し古びていて、ノスタルジーが地面から染み出してくる感じ。
濃密な体験のあとに、こういう静かな時間に放り込まれるのが、すごくいい。スタジオの中で生きていたキャラクターが、自分の中でゆっくり溶けて、なぞのデザイナーに戻っていくような帰り道でした。
体験のあと、ぜひ蓮沼駅から帰ってみてください。
気になった方は、特設サイトから予約してみてください。1週間前までの事前予約制です。
それでは、なぞのデザイナーでした。また別の体験でお会いしましょう。
〈イベント情報〉
【タイトル】 承認欲求からの落下
【会場】 承認欲求STUDIO
(東京都大田区西蒲田・最寄りはJR蒲田駅徒歩6分/東急池上線蓮沼駅徒歩4分)
※詳細住所はご予約後にご案内
【プレイ人数】 7名(配役:女性7名)
【プレイ時間】 4時間
【料金】 ご料金 : 56,000円/7名1組(グループチケットのみの販売となります)
【予約】 公演日の1週間前まで、特設サイトより
【対象年齢】 18歳以上(性的・センシティブな描写を含むため)
【スタッフ】
- 原案・アートディレクター:✨ Aoi Mitsu. ✨
- トリック・物語制作:鯨井翔
【特設サイト】 https://yokyu-studio.com/murder
【お問い合わせ】 yokyu_studio@outlook.jp
ナビゲーター:なぞのデザイナー