赤坂アカがシナリオ/キャラクターデザインを手がけ、集英社ゲームズと共同製作した世界創造謎解きアドベンチャーゲーム『カミとミコ』。プレイヤーは「カミ」となり、言葉の通じない原始の巫女・ミコと共に人類の歴史を歩むブラウザゲームだ。

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ディレクターは、「リアル脱出ゲーム」の生みの親であり、日本の謎解き界を牽引し続けてきた株式会社SCRAP代表・加藤隆生。
ESCAPE.GUIDEは今回、いちクリエイターとしての加藤を取材し、ゲームのテーマから開発の現場までインタビューを行った。

※注意:以降のインタビューにはゲームのネタバレやそれに準じる内容が記載されています。


 

メッセージは「邪魔だった」

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左:インタビュアー しゃる(ESCAPE.GUIDEプロデューサー)/右:加藤隆生(『カミとミコ』ディレクター・株式会社SCRAP代表取締役)
しゃる
しゃる
加藤さん、お久しぶりです!今日はインタビュー、よろしくお願いします。
加藤
加藤
久しぶりやねー。ちょっと前はウチのオフィスにもよくきてくれてたよね。
しゃる
しゃる
僕がアナビ(東京大学謎解きサークル AnotherVision)だった頃ですよね、懐かしいです(笑)。
しゃる
しゃる
じゃあ、さっそく1つ目なんですけど——今回、『カミとミコ』めちゃくちゃ楽しく遊ばせていただきました。序盤、「これがあれば人々が幸せになって、平和になっていく」みたいな発明をしていく展開が、6章くらいまで続くじゃないですか。あそこが、これまでSCRAPさんがリアル脱出ゲームでやってきた「平和」というワードとも重なるな、と感じて。今回、加藤さんが伝えたかったメッセージみたいなものってあったんでしょうか。
加藤
加藤
いや、本当に、メッセージなんてものは全くなくて。面白いシステムで面白い物語を体験すると、人はどういう気持ちになるのか——それを知りたかっただけなんです。
加藤
加藤
メッセージって、感情をどちらかの方向に向かわせたいって意思だと思うんですよね。「遊んだ人の心をこういうふうに動かしたい」っていう心を、作品内で声高に叫んだもの。そう定義した場合、今回は一切なかったですね。どんな方向でもいいから、とにかくただ動いてほしかった。
加藤
加藤
ポジティブに動く人もいれば、ネガティブに動く人もいて、どっちでもない、もやんとした方向に動く人もたくさんいると思うけど。どこかに気持ちが動いてくれれば、それでいいと思って作ってました。
しゃる
しゃる
なるほど。「こういう気持ちになってほしい」みたいな意志はなかったと。
加藤
加藤
なかったです。むしろそれは丁寧に避けました。軽いテーマだけじゃないので、その言葉が「人類とは」「政治とは」「主義主張とは」みたいな方向に向かうとき、僕らとしては、そんな主義主張はないんですよね。ただの2人のありふれた恋を描いたのが今回の『カミとミコ』なので。そこにメッセージを乗せるのは、もう邪魔だった。
加藤
加藤
いかに透明であるか。扱うテーマは重く、でも着地点は透明である——そこが、作っている時に意識した部分かもしれません。
しゃる
しゃる
僕が感じた「平和」みたいな印象も、あくまで物語の中で自然に生まれてきたもの、ということなんですね。
加藤
加藤
プレイヤーがやらなきゃいけないことは、むしろ平和とは反する方向に進んでいったりするので。
加藤
加藤
このゲームは、「平和であるべきだ」とも「発展すべきだ」とも言ってないんです。ただただ、2人の生き物が恋をする——しかも馬鹿げた規模の恋を、ありふれたものとして描くための装置として、歴史を利用しました。それ以上の意図はないんです。

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⚠ ここからネタバレあり

「逆転」は最初の企画書から入っていた

しゃる
しゃる
なるほど。ありがとうございます。じゃあ、ここからちょっとゲームの中の話になっちゃうんですけど——
しゃる
しゃる
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加藤
加藤
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しゃる
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加藤
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しゃる
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加藤
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「全部ハッピーエンドだと思ってる」

しゃる
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加藤
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加藤
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加藤
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加藤
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しゃる
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加藤
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しゃる
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▲ ここまでネタバレ

 


 

 

伊藤さんのBGMと、「チップチューンだと気づかれない」問題

しゃる
しゃる
じゃあ次、BGMの話をさせてください。これ、記事でも書かれてたんであれなんですけど——SCRAPがブラウザでやる、って言ったら、僕の中では『REGAME』なんですよ。で、REGAMEと言ったら、BGMが良かった!っていう記憶で。
加藤
加藤
懐かしいもん持ってくるね。あれももう10年前とかよ。
しゃる
しゃる
時間が経つの、早い……。でも僕の中では全然色褪せてなくて。『サイレントキューブからの脱出』の曲とか、本当に好きだったんです。
加藤
加藤
そこら中で使うんですよ、あの曲。
しゃる
しゃる
あれがホラーのエンディングで流れたときは、ちょっとずっこけましたけど(笑)。今回のBGMは、伊藤さんですよね。お付き合いって、どれくらいになるんですか?
加藤
加藤
もう25年とかかな。バンド時代から——いや、その前から知り合いで。彼の作るものを、ずっと尊敬しているので。不思議なもので、伊藤君とはほとんど喋ってないんですけどね。
しゃる
しゃる
それで、そんなに信頼しきってるのがすごいですよね。
加藤
加藤
信頼しかないですよ。仮のゲームができたとき、伊藤君が遊んでくれて、向こうからどんどんイメージを引っ張っていってくれて。出てきたものに、僕らは頷くだけでした。最後のほうに、すごく怖い音が鳴ってて。想定よりめちゃくちゃ怖かったんだけど、「伊藤君がそうするならいいか」と受け入れてたら、後で本人から「あそこ、ちょっと怖すぎたので変えました」って(笑)。
しゃる
しゃる
加藤さんが、何か言ったわけでもなく(笑)。
しゃる
しゃる
主題歌が、チップチューンから生音にシームレスに変わっていくじゃないですか。あれも伊藤さんのアイデアですか?

💬 チップチューンとは? ファミコンや昔のパソコンに積まれた、小さな音源チップで鳴らす電子音楽のこと。いわゆる「ピコピコ音」。鳴らせる音の数や種類に強い制約がある。

加藤
加藤
「チップチューンに、生の声を重ねたい」というのだけが、僕のアイデアかな。でも実はあれ、最後までチップチューンなんですよ。技術がすごすぎて、チップチューンに聞こえなくなっちゃう。
しゃる
しゃる
え、あれ全部チップチューンなんですか!?
加藤
加藤
ギターも、実はそこまで生じゃないんです。ものすごい技術で。伊藤君は少年時代、MSXっていう、性能のすごく低いパソコンで、「最高にいい音を出すにはどうすればいいか」を、ずっと研究してた人で。

💬 MSXとは? 1980年代に普及した家庭用パソコンの共通規格。現代のパソコンと比べると性能はかなり限られている。

加藤
加藤
ハードのスペックをギリギリまで引き出すことを、ずっと追求してきた。だから技術が高すぎて、チップチューンに聞こえない、という逆説が起きていて。チップチューンだと気づかれないのだけが、僕の心残りでもあるんですよね(笑)。曲は全部で11曲くらい。各章で少しずつ音が変わっているバージョン違いもあって。いずれ配信できればと思っています。
しゃる
しゃる
絶対、配信したほうがいいですよ。

 


 

「スクラップ&ビルド」をデジタルでやってみた

しゃる
しゃる
他のインタビューだと、赤坂先生や集英社ゲームズさんとのやり取りはたくさん出てたと思うんですけど。今日は、御社の中の制作チームの話を聞きたくて。実際、どうだったんですか?
加藤
加藤
いや、大変だったよ(笑)。作ったことがないものを、作ったことがない人たちで作るから、ゴールが見えない。ゴールどころか、手前のマイルストーンも一つも見えなくて。だから、各自が「多分これ」と目についた、自分がやるべきことを、それぞれの責任で果たしていく、という仕事の仕方で。効率的ではなかったけど、振り返って「別の作り方があったか」と言われると、そうではなかったかもしれない。
しゃる
しゃる
開発会社のTAMさんがいて、ずっとアナログばかり作ってきたSCRAPさんがいて、っていう体制ですよね。
加藤
加藤
増田さんという、外でゲーム開発をしてきた人がいなかったら、とてもじゃないけど作れなかった。TAMさんが「システムの入れ物だけ用意したので、テキストや人の動きは、SCRAP側で動かせるようにしときました」と言ってくれて。その上で、何を入れるかを全部こっちで作っていく、という形でした。
しゃる
しゃる
まさに「スクラップ&ビルド」を、デジタルでもやった、っていう感じですね。
加藤
加藤
まさにそうで。デバッグをやってみて、人が詰まったところって、大チャンスなんですよ。バグが見つかったら、それをいかにゲームに組み込んでいくか。みんながここで転ぶね、というところこそが、驚きポイントになったりする。リアル脱出ゲームのメソッドがまさにそれで。
加藤
加藤
デバッグで出た感情やリアクションを、最終的にエンターテインメントにしていく。その作り方しかできないから、それをデジタルでもやった、という感じですね。あの作り方じゃないと、本当に作れなかっただろうなと。
しゃる
しゃる
リアル脱出ゲームと同じチームでの動きを本当になぞってたんですね。チームのやり取りは、どんなふうに進めていたんですか?
加藤
加藤
問いをチームに投げ続けて、みんなが自由に返してくれて。「今のままじゃダメです、こういう方向性のアイデアが必要です」っていうのを、みんなで出し合って、反応が良かったものを育てていく。あの作り方だったから、このゲームができたんだと思います。

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最近、心が動いていないあなたへ

しゃる
しゃる
続いて、これめっちゃ聞きたかったんですけど——今回『カミとミコ』を、リアル脱出ゲームを作ってきたSCRAPさんが「ゲームタイトル」として、しかもインディーゲームの領域で出したじゃないですか。最初から"インディーゲーム"として出そうと思っていたんですか?
加藤
加藤
いやインディーゲームってジャンルを狙ってたわけではないですね。
加藤
加藤
インディーというかブラウザゲームにしたのは、限られた予算の中で、一番早く世の中に出せる方法がそれだったからっていうシンプルな理由です。あとたくさんの人にいつでも届けられるっていうのもあったかな。
しゃる
しゃる
その領域をビジネス的な視点で狙ったっていうよりは、クリエイティブの最適解を出していったらたまたまこの形だった、って感じですかね?
加藤
加藤
そうですね。僕が作る時は割と「この層を狙っていこう」みたいなことは少ない気がします。
しゃる
しゃる
あと、『カミとミコ』がどんな人に遊んでほしいか、っていうのも聞きたいです。謎解き好きでも、まだ遊んでない人ってたくさんいると思っていて。
加藤
加藤
誰に遊んでほしいか、っていうのは、本当に僕はわからないし、考えたことがないんですよ。これ、うちの会社ではもう少数派の考えになっちゃったんですけど。結果として僕たちのつくったものにはいろんな世代、いろんな地域の方が来てくれるなって思うんです。
加藤
加藤
基本的には、8歳ぐらいから90歳ぐらいまで遊べるゲームを作りたいと思っています。ゲームシステムも石を選ぶだけみたいな。複雑なものは何もなく。
加藤
加藤
まあ、しいて言うなら——見たことのない物語や、「えっ」となる驚きが好きな人には、その瞬間がたくさんある。このゲームの驚きは例えばホラー作品みたいな急にくるものじゃなく、緻密に構成された物語の中に必然性を持って入っている。だから、安心して驚ける、というか。
加藤
加藤
最近、心が動かないな、と感じている人がいたら、ぜひ遊んでほしいですね。

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しゃる
しゃる
実は僕、これをプレイして『CLANNAD(クラナド)』を思い出したんです。プレイ時間200時間、アニメ化したら50話になる作品で。「まず45話まで見てみて」みたいな進め方になっちゃうんですよ。でも『カミとミコ』はすごく進めやすくて、心を動かすためにストーリーがずっと作られていて、エンディングでガッとくる。
加藤
加藤
確かに。そういう意味では、忙しい人をイメージしてるかもしれない。結局、自分になるから——もう10時間もかかる物語は無理だしな、みたいな(笑)。
加藤
加藤
ワンピースを読んで心が動くって、ワンピースの面白さもあるけど、この30年間一緒に歩んできたキャラクターが勝った、みたいな部分もあるじゃないですか。コナンを見て喜ぶ人も、30年応援してきた2人が……みたいな。そういう心の動き方ってすごいことだし、僕にもそういう経験はたくさんある。でも、キャラクターへの愛着、世界を理解して先に進むこと、その人の成長を喜び、世界が向かう方向を憂えたり喜んだりする——その経験を、5時間くらいでギリギリまで煮詰めて、純粋に豊かな部分だけを丁寧に切り取って配置したのが『カミとミコ』だと思うので。すごく上質なものに、短い時間でダイレクトに触れられる。
しゃる
しゃる
贅沢なゲームですね。
加藤
加藤
大げさに言えば、人生が変わるようなゲームだと思っています。最近ちょっと平坦だな、と感じている人の、心が動くきっかけになれば。

 


 

「どうなるか見てみたかっただけ」

しゃる
しゃる
お話を聞いてると、加藤さんのやりたいことは全部「問いかけ」なんだな、と思って。「こういう作品を作ったら、世界はどう動くんだろう」っていう問いを、ものすごくフラットに見てみたい、っていう気持ちが根っこにある気がするんです。
加藤
加藤
本当に、その通りですね。『カミとミコ』も、例えばアメリカの人がやったらどんな気持ちになるのか、ちょっと見てみたいんですよね。うちらが思い描いてたのとは全然違うかもしれないし、実は一緒なのかもしれないし。
しゃる
しゃる
それは気になりますね。
加藤
加藤
『夜の幽霊アパートからの脱出』を作ったときも、「立方体のグッズがあったら、びっくりするんじゃない?」というところから始まったし。「エレベーターが開いて学校が出てきたら、びっくりするんじゃない?」というところから『学校の77不思議からの脱出』をつくったし。
加藤
加藤
最近つくった『謎の館からの脱出』も「館でゲームできたら嬉しくない?」って試算したら、1公演120,000円になって。「まあ、みんながどう思うかやってみよう、どこで撤退するかだけ決めとこう」って(笑)。そこに「館を使ったら、20代後半の男性が買うと思います」みたいなマーケット調査はないんです。そんなデータ、どこにもないし。全部の発想が「どうなるでしょう」から始まってる気がします。
しゃる
しゃる
なるほど。じゃあ『カミとミコ』も同じ気持ちで。
加藤
加藤
そうですね。本当にただ、どうなるか見てみたかっただけ、というのが正直なところかもしれません。
しゃる
しゃる
……と、そろそろお時間ですね。今日は本当に、濃いお話をありがとうございました!
加藤
加藤
こちらこそ、ありがとうございました。
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右:インタビュアー しゃる(ESCAPE.GUIDEプロデューサー)/左:加藤隆生(『カミとミコ』ディレクター・株式会社SCRAP代表取締役)

 

『カミとミコ』を遊ぶ↓

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『カミとミコ』公式サイト

©︎SCRAP / 赤坂アカ / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES
※「リアル脱出ゲーム」は株式会社SCRAPの登録商標です。

 

取材・文:ESCAPE.GUIDE編集部