【本記事は過去開催していたイベントのアーカイブ記事として掲載しています】

あなたは、やり直したい”あの日”はありますか?

「ねえ知ってる?記憶を扱う、不思議な質屋の噂。」
「やり直したい〈あの日〉の記憶を預けると、〈あの日〉をやり直してもらえるんだって……」

そんな質屋が、本当にあったとしたら。
こんにちは。やり直したい記憶を数えだしたら朝が来てしまうESCAPE.GUIDEナビゲーター、なぞのデザイナーです。

今回は、神楽坂の街そのものを舞台にした、街歩き型イマーシブシアター『記憶の質屋 ほの灯り堂』にお邪魔してきました。

『ほの灯り堂』は、ロングランプランニング株式会社さんと、イマーシブシアタークリエーションチーム・ムケイチョウコクさんが共同で手がける初めての共同製作公演です。
参加者は物語の登場人物となり、ソニーの音声ARアプリ「Locatone™(ロケトーン)」で耳元に流れる音声に導かれながら、神楽坂の路地を歩いていきます。

訪れた先で出会うのは、役者さんが演じる作中のキャラクター。会話を交わしながら、街と物語を自分の足で巡る110分です。
そして、この作品の大きな特徴がもうひとつ。昼と夜で、登場人物も時代も全く違う物語が走っているんです。

同じ街で同じ仕組みなのに、シナリオから道程、訪れる場所が変わる。
<昼の物語>と<夜の物語>、さらに1つの物語に3つのルート選択肢があり、何度でもたのしめる、という構造になっています。
……これ、ちょっと普通の体験型のレベルじゃないやつな予感がしませんか?
ということで、今回は昼夜両方やってきました。

(撮影禁止のコンテンツのため、本記事の写真は基本的に制作団体様ご提供の写真を使用しております)
また『ほの灯り堂』は、参加者が選ぶコースによって体験する物語が変わる作品。せっかくなので別々のコースを体験して後で答え合わせができるよう、ESCAPE.GUIDEで普段から取材にご協力いただいているお二人にもきてもらいました!
普段は謎解きイベントを中心に参加している桐間彩さん。

そして、マダミスやイマーシブシアターの体験を中心に参加しているもやくん。

そしてなぞのデザイナーの、合計3人で神楽坂の街に挑みます!
第1章 飯田橋の「学校跡地」に集合
集合場所は、飯田橋駅から歩いてすぐの「学校跡地」。こう書いてある時点で、もう既に物語が始まっている感じがしてすごく良いですよね。
受付を済ませると、スタッフさんから渡されるのはオープンイヤーイヤホンと、希望すれば羽織。

イヤホンは耳を完全に塞がないタイプのものでした。街の音は普通に聞こえつつ、耳元でだけ別の声が聞こえる、という不思議な状態を作り出してくれます。
そして羽織。これがまた、着るだけで急に物語の住人になれる装置のようで、お祭り感も出て楽しいです。
羽織に袖を通しつつ、ロケトーンの具合を確認していると、どこからか鈴の音が聞こえてきます。
徐々に鈴の音ははっきりと聞こえてきて、気がつくと……

ほの灯り堂に辿り着いていました。

そして、私たちは店主からこう投げかけられます。
「あなたのやり直したい記憶を、教えていただけますか」

札に、自分の「やり直したい記憶」をひとつ、書きます。
今は何も考えず、自分の記憶をふりかえって、ただ書いてください。
第2章 街に出る、物語が始まる
QRコードを読み込んだ瞬間、耳元に声が流れ始めます。そこからはもう、神楽坂の街がまるごと舞台です。

歩く先々で、作中のキャラクターと出会う仕組みになっています。
なぞのは昼の回で、芸者・華子の物語を選びました。

きらびやかな着物の芸者さんが、路地の角でこちらを待っている。
すれ違う一般のお客さんは「え?」という顔をしますが、こちらは完全に物語の登場人物の顔で会話を交わします。この没入のスイッチの切り替えが気持ちいいんですよね。

ちなみに桐間さんは同じ昼の回で作曲家・千賀のコースへ。同じ時間に同じ街を歩いていたのに、聞いていた物語は全く別のもの、という構造になっています。

そう、途中で他のコースのキャラクターと交差する瞬間があるんです。
そこで、「このまま、最初に決めた人についていくか」「気になる別の人を追いかけるか」を、自分で選ぶ。
選んだ先で、見える景色が変わる。

自分の足が、物語のシナリオを書いている感覚があります。これがイマーシブシアター……
第3章 夜になると、神楽坂は別の街になる
ここで強調しておきたいのが、最初にも書いた「昼と夜は完全に別の物語」という点。
同じ街、同じ仕組み、同じキャストが演じているのに、登場人物も時代もシナリオも違うんです。

昼を観た後に夜を観ると、「同じ作品の続き」ではなく「全く異なる物語が始まった」感覚になります。
<昼の物語>と<夜の物語>を合わせることで、よりこの『ほの灯り堂』という作品の輪郭が見えてくるのです。
そしていよいよ夜。

なぞのは夜の回で師匠・沢崎のコースへ。もやさんは女・さちのコースを選びました。

街並みが違うんですよね、本当に。昼に歩いた同じ路地のはずなのに、提灯の灯りひとつで、街全体の温度が変わって見えます。

ロケトーンの音声、生身の役者さんの言葉、神楽坂の夜の空気、それが全部混ざって、耳と目と足の裏から物語が染み込んでくる感覚です。
歩きながら、なぞのは小道具として提灯を持っています。
これがまた、ただのアイテムというより、自分が物語側に立っている目印のように機能するんですよね。灯りを持って夜の神楽坂を歩いている時点で、もう完全にこっち側です。
第4章 「灯り番」というポジション

昼夜両方を体験して、なぞのが「これはいい設計だな〜」と感じたのが、灯り番(あかりばん)の存在です。
灯り番というのは、街中で参加者を見守りつつ、進行を促してくれる黒子のようなキャストさんのこと。
街歩き型のイマーシブって、絶対に安全管理が課題になると思うんですよ。道路を渡るタイミング、迷子、急な体調不良、一般通行人とのトラブル。これを誰が見るのか、という問題があるはずです。

ガッツリ「スタッフです」みたいな人が出てきたら一気に冷めてしまうし、かといって全員が物語の登場人物だと、安全を守る動線が作りにくい。
これに対して、ほの灯り堂は灯り番というポジションを置くことで応えています。
灯り番は、物語の中の進行役・誘導役として登場します。話しかけてくれて、行き先を教えてくれて、時に物語の説明もしてくれる。でもその裏で、参加者の安全をしっかり見ている。
つまり、物語の世界に没入したまま、安全管理が成立しているわけです。
街歩き型イマーシブを成立させる上で、これは大事な仕組みだと感じました。
第5章 制作チームへのインタビュー
今回は特別に、制作チームのお二人にお話を伺うことができました。ロングランプランニング株式会社の熊谷さんと、ムケイチョウコクの野元さんです。

なるほど。観光的な「映える神楽坂」だけではなく、そこで暮らした人にしか描けない神楽坂という舞台になっていた理由がわかりました。

ここから話は、今後の展開へ。

……これ、フォーマットとしての強さがありますね。
街と物語を入れ替えれば、どこでも展開できる。それでいて、各地の歴史や記憶が題材になる。地域コンテンツとしての可能性も含めて、今後広がりが見えるプロジェクトだと感じました。
第6章 そして、最後の選択
物語の終盤、参加者にはある選択が用意されています。ここから先は、ぜひ会場でご自身の足で確かめてみてください。

物語を見て終わり、というだけではないんですね。物語を見たうえで、自分自身の記憶と向き合う時間が用意されている。

会場にはこれまでの参加者が書いた「やり直したい記憶」が貯まっていて、もう壁のようになっているそうです。
参加者一人ひとりの「やり直したかった記憶」が積み重なっていく装置として、会期が進むほど、この空間は厚みを増していくのかもしれません。
こんな人におすすめ
- イマーシブシアターが初めての人 → 灯り番の導線設計が親切で、迷わず楽しめます
- 演劇やナラティブ体験が好きな人 → キャストの表現力と物語の細部を堪能できます
- 街歩き・散歩が好きな人 → 神楽坂のローカルな魅力と物語の掛け合わせを味わえます
- 何度も通いたいタイプ → 昼夜の差・分岐・キャストの違いで、何周しても新しい発見があります
[画像:神楽坂の風景]
そして、これが今回一番伝えたいところなのですが──。
この作品は、昼と夜のセットで観るのがおすすめです。
夜の物語はやはり情景的にドラマチックで世界観にどっぷり浸かれますし、逆に昼の物語は街の細かいところを見ることができる街歩きとしても美味しい要素が入っていたりします。
終演後にお店を覗いたり、軽くランチしたりと前後の時間も楽しめるのがいいところだなと思いました。
[画像:神楽坂のお店や街並み]
なぞのとしても、「どちらも見ておいた方が楽しそうだな」というのが正直な感想です。
ちなみに……
終わりに

街には、誰かの「やり直したかった記憶」が、たぶん本当に染み込んでいるんだと思います。
普段は気づかずに通り過ぎている路地の角に、誰かのあの日があって、誰かの後悔があって、誰かの「やっぱりやめておこう」があって。
『ほの灯り堂』は、それを少しだけ可視化してくれる装置でした。体験が終わって神楽坂駅に向かって歩く帰り道、なぞのは自分が書いた「やり直したい記憶」のことを、ぼんやり考えていました。
街歩き型イマーシブシアターという形式に興味がある方、神楽坂という街の別の顔を見てみたい方には、ぜひ体験してみてほしい作品です。
夜回はとくに人気で、後半に向かうほどチケットが取りにくくなるそうなので、気になっている方はお早めに。昼回は比較的余裕があり、また夜とは全く違う物語が楽しめるので、昼夜セットで予約するのもおすすめです。
『ほの灯り堂』は、5月3日まで。
それでは、なぞのデザイナーでした。また別の体験でお会いしましょう。
〈イベント情報〉

【タイトル】 記憶の質屋 ほの灯り堂
【公演期間】 2026年4月22日(水)〜5月3日(日・祝)
※4月22日は〈夜の物語〉のみ実施。5月3日は〈夜の物語〉17:10が最終回。
【会場】 神楽坂 周辺
集合場所:学校跡地(飯田橋) 〒162-0824 東京都新宿区揚場町2-28
【チケット】 5,800円(税込・オープンイヤーイヤホン貸出料金込)
【スタッフ】
- 構成・脚本:今井夢子(ムケイチョウコク)
- 演出:ムケイチョウコク & all cast
- メインディレクター:美木マサオ(ムケイチョウコク)
- 制作プロデューサー:野元綾希子(ムケイチョウコク)
【出演】
<イマーシブキャスト>
- 〈昼〉芸者・華子/〈夜〉女・さち:石田佳名子 / 石田迪子 / 小林未往 / スガヌマショウコ
- 〈昼〉作曲家・千賀/〈夜〉愛弟子・鮎見鏡水:市川真也 / 上原徹也 / 河合国広 / 塚越光
- 〈昼〉旦那・小野寺/〈夜〉師匠・沢崎:角川裕明 / 金川周平 / 窪田道聡 / 熊野善啓
- 〈昼夜共通〉質屋の店主:AGATA / 内山智絵 / 大塚由祈子
- 〈記憶の声(声の出演)〉梅津瑞樹/寺崎裕香
【製作】 ムケイチョウコク・ロングランプランニング株式会社
【主催】 ロングランプランニング株式会社・株式会社NO MORE
【システム提供・制作協力】 ソニーマーケティング株式会社・SoVeC株式会社
【協力】 一般社団法人新宿観光振興協会・株式会社粋まち・東京平版株式会社
【助成】 アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】
【公式サイト】 https://honoakarido.com
【公式SNS】 Instagram:@kioku_no_shichiya / X:@mukeichoukoku
ナビゲーター:なぞのデザイナー