【前編】映画『8番出口』特別対談:企画誕生までの道のり<ゲーム・映画・リアルイベントの三位一体プロジェクト>

【前編】映画『8番出口』特別対談:企画誕生までの道のり<ゲーム・映画・リアルイベントの三位一体プロジェクト>

社会現象となったゲームそして映画『8番出口』。その熱気はスクリーンを飛び出し、今、東京の地下鉄に「異変」を発生させている。黄色い紙袋を手に、駅構内を探索する人々。彼らが挑むのは、映画と連動したリアル謎解きゲームだ。

なぜこの前代未聞のコラボレーションは生まれたのか。そして、ゲーム、映画、リアル謎解きという三つの体験を繋ぐことで、どのようなエンターテインメントを目指したのか。映画『8番出口』の監督である川村元気さんと、謎解き制作を担当した角谷進之介(どや)さんに、プロジェクトの始まりとその全体像について語ってもらった。

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── 今回、映画『8番出口』と東京メトロ、そしてリアル謎解きゲームという大規模なコラボが実現しましたが、どのような経緯で企画が始まったのでしょうか?

川村元気 (以下、川村): もともと映画の『8番出口』の撮影に、東京メトロさんが全面協力してくれていたんです。撮影はもちろん、映画の宣伝にもご協力いただくなど、本当に手厚いサポートがあって。せっかくここまでご一緒できるなら、何か面白いことができないかと考えたのが始まりです。「リアル8番出口みたいなことを謎解きでやりたいよね」という話になりました。

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── そこで、謎解きクリエイターのどや(角谷進之介)さんに白羽の矢が立ったわけですね。

川村: どやくんが作る謎の素晴らしさは以前から知っていました。彼なら、ただの謎解きに留まらない、もっと深い体験を作ってくれるだろうと。さらに今回は、僕が執筆した小説版『8番出口』とも連動させています。小説の謎もどやくんにお願いすることで、”映画””小説”そして”リアルの謎解き”という三つの点が結びついて、一つの「三角形」になると考えました。どこから入っても楽しめるし、すべてを体験すれば、より深く『8番出口』の世界に没入できる。そんな多層的な楽しみ方ができるといいな、と。

角谷進之介 (以下、角谷): このお話を元気さんからいただいた時、まず企画として、『8番出口』と『東京メトロ』の組み合わせが、そもそもとても魅力的だなと感じました。さらに謎解きクリエイターにとって、地下鉄を舞台にした周遊型の謎解きは一つの「憧れ」なんです。遊ぶ人も多いですし、挑戦的な仕掛けも作りやすい。そこに『8番出口』という強力なテーマが加わるわけですから、これはもう、ぜひやらせてください、と即答でしたね。

── 元気さんが映画で目指したのも、単なるゲームの映画化ではなかったそうですね。

川村: そうなんです。原作のゲームのデザインがとにかく素晴らしかったので、僕が作りたかったのは、ゲームと映画の境目が曖昧になるような新しい映画体験でした。観客がゲームのプレイヤーとして映画を見たり、あるいは誰かがプレイしているゲームを後ろから見ているような、いわゆる「ゲーム実況」を見ている感覚でも楽しめる。そんな構造を目指しました。

── その構造が、今回のプロジェクト全体に繋がっていると。

川村: まさに。このプロジェクト全体が、「自分がプレイする」もしくは「プレイしている人を見る」という体験によって成り立っているんです。映画を見て謎解きに興味を持つ人もいれば、謎解きをきっかけに映画や小説に触れる人もいる。周遊して遊ぶという体験が、様々な入り口から楽しめる稀有な例だと思います。

── 小説版もプロジェクトの重要な柱とのことですが、映画とはどのような関係性なのでしょうか?

川村: 今回、映画と小説は、パズルのピースがデコボコにはまるような「入れ子構造」を意識して作りました。どちらか一方だけをなぞるのではなく、それぞれが独立した面白さを持ちながら、合わせることで全体像が見えてくるような関係です。例えば小説版では、映画の中では語られなかったことが、かなり細かく描かれています
映画を観た人が小説を読むと「ああ、あれはこういうことだったのか」と理解が深まるし、逆に小説を読んでから映画を観ると、映像ならではの表現にハッとさせられる。そういう楽しみ方ができる方が面白いかな、と。その中に、更にどやくんに頼んで謎も入れ込んでもらったんだよね。

角谷: そうですね、最初何言ってるんだろうと(笑)。でも僕にとっても初めての体験で、大変ではありましたが、非常に面白い挑戦でした。一番意識したのは、謎の存在によって小説の世界観や物語を歪めてしまわないようにすることでした。謎のために不自然な文章を入れるようなことはしたくなかったので、物語に自然に溶け込む形での仕掛け方を考え抜きました。

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── 謎は全部で4つあるそうですが、対談時点ではまだ全て解かれていなかったとか。

角谷: そうなんです。アナウンスをしてから1つは見つけていただけたようですが、SNSを見ている限り、少なくとも2つはまだ誰にも気づかれていないようでした。

── なぜ、小説に謎を仕込んだのでしょうか?

川村: 謎を解いた時に得られる感覚と、物語を読み終えた時の読後感が、きれいにシンクロしたら面白いなと思ったんです。謎を解くと特定のキーワードが現れるのですが、それが物語のテーマと響き合うように設計されています。

角谷: 難しい問題だからこそ、解けた時の体験はより大きなものになります。ただ読むだけでなく、物語に隠された「異変」を探すように能動的に関わってもらうことで、読書体験そのものがゲームのようになる。そんな狙いがありました。

(中編へ続く)

中編はこちら

映画8番出口公式サイト:
https://exit8-movie.toho.co.jp/

小説「8番出口」公式サイト:
https://www.suirinsha.co.jp/books/detail21.html

映画「8番出口」東京メトロ脱出ゲーム 公式サイト:
https://escape.id/exit8/